キュビスムとは?歴史や代表的なアーティストと芸術作品をわかりやすく解説

美術用語

キュビスムは20世紀初頭にパブロ・ピカソジョルジュ・ブラックによって創始された芸術運動です。キュビスムは、芸術史上重要な運動の一つであり、現代美術においても大きな影響を与えたとされています。
この記事では、キュビスムの意味や歴史、代表的なアーティストと芸術作品について分かりやすく解説します。

キュビスムとは?

キュビスムの意味

「キュビスム」という名前の由来は「キューブイズム」、つまり、和訳すると「立方体主義」から来ています。
モチーフを立方体のように幾何学的に変化させ、再構成することで絵画を抽象的な表現へと変化させる手法をキュビスムと呼んだのです。
簡単に言うと、「一つの視点ではなく複数の視点から見た面を一つのキャンバスに収めること」がキュビスムの特徴と言えます。

「キュビズム」と「キュビスム」の違いは?

「キュビスム」と「キュビズム」は、どっちが正しいのでしょうか?

キュビズムとキュビスムはどちらも同じ意味を持ちますが、表記の違いがあります。キュビスムはフランス語 (cubisme) の表記であり、キュビズムは英語 (cubism) の表記です。
ちなみに、日本語では「立体派」や「立方体派」と訳されることがあります。

キュビスムの始まりと歴史

キュビスムは、20世紀初頭のフランスでパブロ・ピカソとジョルジュ・ブラックによって創始された芸術運動です。
モチーフを複数の角度から幾何学的に分解し、再構成する技法を用いたキュビスムは、芸術史上重要な運動の一つであり、現代美術においても大きな影響を与えました。

キュビスムの前身として、ポール・セザンヌの影響が大きかったとされています。
セザンヌは、対象を幾何学的にとらえ、多角的に描く画家でした。

ポール・セザンヌ《ビベムスの採石場》の絵ポール・セザンヌ《ビベムスの採石場》1895年 フォルクヴァンク美術館

セザンヌからの影響を受けつつ、ピカソとブラックはキュビスムという新しい表現を生み出したのです。

キュビスム始動のきっかけとなったのはピカソの《アヴィニョンの娘たち》でした。アトリエで初めてこの作品を見せられたブラックは衝撃を受け、自らも制作を始めます。

キュビスムという名前は、ブラックの風景画《レスタックの家》が小さなキューブの集合に見えたことから名付けられました。ブラックは「自然を円錐、球、円筒によって扱う」というセザンヌの理論をもとにモチーフを単純な形態に変換していったのです。

ジョルジュ・ブラック《レスタックの家》の絵ジョルジュ・ブラック《レスタックの家》1908年 ベルン美術館

キュビスムの時代区分

キュビスムの中でも以下のように、詳細な時代区分がされることがあります。
(※あくまでピカソとブラックのキュビスムをベースにした区分であり、その他の作家たちについては必ずしもあてはまるものではありません)

プロト・キュビスム

プロト・キュビスムは、キュビスム最初期の芸術運動です。セザンヌの影響が色濃く残っているため、セザンヌ的キュビスムとも呼ばれます。
また、ピカソは直前にアフリカ彫刻やオセアニアの美術など、非西洋の芸術に影響を受けていました。この頃の代表作の《アヴィニョンの娘たち》に描かれた女性像の顔立ちは目が大きく、アフリカ美術の影響が指摘されています。

パブロ・ピカソ《アヴィニョンの娘たち》の絵パブロ・ピカソ《アヴィニョンの娘たち》1907年 MOMAニューヨーク近代美術館

一方向の視点から描く伝統的な絵画の方法ではなく、上下左右や表裏など、同時的な複数の視点から描くこのスタイルは、美術界に大きな衝撃を与えました。

分析的キュビスム

1909年の夏頃以降から対象の分析はさらに進み、作品は平面に近づいていきました。対象を小さな切子面に分解し、再構成する技法は、分析的キュビスムと呼ばれます。
人物や静物のモチーフがよく描かれましたが、何が描かれているか識別するのは困難です。

パブロ・ピカソ《ウーデの肖像》の絵パブロ・ピカソ《ウーデの肖像》1910年 個人蔵

総合的キュビスム

分析的キュビスムで対象の分析と解体が進んだ結果、描かれているものの判別が困難となる事態に陥ります。このとき分離された色や形といった個々の要素を再び統合する試みの中で、パピエ・コレの技法を使った「総合的キュビスム」が誕生します。

パピエ・コレの技法とは、印刷物などの紙や新聞紙などをキャンバスに直接貼り付けるものです。

さらには、色彩が豊かになったことも総合的キュビスムの特徴と言えます。

パブロ・ピカソ《グラスとSuzeの瓶》の絵パブロ・ピカソ《グラスとSuzeの瓶》1912年 ワシントン大学アートギャラリー

このようなコラージュの手法は、マルセル・デュシャンのレディ・メイドの先駆とも言われています。

パピエ・コレの意味や歴史、よく似た技法との違いについてはこちらで解説しています。

パピエ・コレとは?意味やコラージュとの違いについて分かりやすく解説
「パピエ・コレ(papier collé)」はフランス語で「貼りつけられた紙」を意味し、キャンバスに新聞紙や壁紙などの素材をのりで貼りつける技法のこと。この記事では「コラージュ」「アッサンブラージュ」「フォトモンタージュ」との違いについても解説します。

ロココ的キュビスム

1914年頃から、ピカソは緑色を基調とした装飾性に富む作品を制作します。
その優雅な装飾性から、18世紀の華やかな芸術文化になぞらえてロココ的キュビスムと呼ばれました。

パブロ・ピカソ《若い娘の肖像》の絵パブロ・ピカソ《若い娘の肖像》1914年 ポンピドゥーセンター

クリスタル・キュビスム

1915 年から 1916 年頃にかけて、大きく重なり合う幾何学的平面と平らな表面の動きをさらに強調されるようになりました。
その明瞭さと秩序、締まった構成から、批評家のモーリス・レイナルによって「クリスタル・キュビスム」と呼ばれるようになります。

ジャン・メッツァンジェ《チェスに興じる兵士》の絵ジャン・メッツァンジェ《チェスに興じる兵士》1914-1915年 シカゴ大学スマート美術館

フォーヴィスムとの共通点・違い

キュビスムとフォーヴィスムとの共通点として、20世紀初頭のパリを中心に発展したことが挙げられます。
また、どちらの芸術運動も、ルネサンス以降から続いてきた写実主義や、さらには当時の主流となっていた印象派からさえも脱却するものでした。

両者の違いを一言で説明するなら、フォーヴィスムは色彩に、キュビスムは形態によりフォーカスした芸術運動だったと言えます。

フォーヴィスムは目に映る色彩ではなく心が感じる色彩を表現しました。代表的な画家としては、マティス、ドラン、ヴラマンク、デュフィが挙げられます。

キュビスムはモチーフを複数の角度から幾何学的に分解、再構成しました。代表的な画家としては、ピカソ、ブラック、レジェが挙げられます。

キュビスムの代表的なアーティスト

パブロ・ピカソ

パブロ・ピカソの肖像写真

・出身地:スペイン マラガ
・生年月日:1881年10月25日
・死亡年月日:1973年4月8日(享年91歳)

パブロ・ピカソは「20世紀最大の画家」と呼ばれる巨匠です。
幼少期より絵の才能を発揮し、14歳で画家としての活動を開始。1904年にパリへ移住します。そこでセザンヌやロートレック、シャバンヌといった一流画家たちの画風を吸収し、暖かみのある色使いでサーカスや旅芸人などを描いた「バラ色の時代」で、一躍脚光を浴びました。
ポスト印象派の巨匠セザンヌに影響されたピカソは、1907年夏、《アヴィニョンの娘たち》を制作。モチーフを複数の視点から描くキュビスムの技法を考案しました。

パブロ・ピカソの生涯と代表作品についてはこちらをご覧ください。

パブロ・ピカソとは?20世紀を代表する芸術家の生涯と画風の変遷、代表作品について解説
「20世紀最大の画家」と呼ばれる芸術家パブロ・ピカソの生涯と画風の変遷を幼少期から、青の時代、バラ色の時代、キュビスム、後期作品まで分かりやすく徹底解説。陶芸作品や、ピカソと仲が良かった芸術家とのエピソード、動物好きのエピソード、名言についてもまとめました。

ジョルジュ・ブラック

ジョルジュ・ブラックの肖像写真

・出身地:フランス・アルジャントゥイユ
・生年月日:1882年5月13日
・死亡年月日:1963年8月31日(享年81歳)

ジョルジュ・ブラックは、ピカソと並ぶキュビスム創始者の一人です。
職人だった父や祖父と同じく幼少期から装飾芸術を学び、1897年には名門エコール・デ・ボザールに入学。25歳のころに詩人ギヨーム・アポリネールと共にピカソのアトリエを訪れ、《アヴィニョンの娘たち》を観て衝撃を受けたといいます。セザンヌの風景画の影響を受けつつ制作した《レスタックの家》は、「キュビスム」という名前のきっかけとなりました。

ジョルジュ・ブラックの生涯と代表作品についてはこちらをご覧ください。

ジョルジュ・ブラックとは?ピカソと並ぶキュビスム画家の生涯と代表作品について解説
ジョルジュ・ブラック(1882年- 1963年)は、フランスの画家であり、ピカソと並んで「キュビスム」の創始者の一人として知られています。この記事では、ブラックの芸術的なキャリアと作品の特徴、彼が残した名言について詳しく探求していきます。

フェルナン・レジェ

フェルナン・レジェの肖像写真

・出身地:フランス アルジャンタン
・生年月日:1881年2月4日
・死亡年月日:1955年8月17日(享年74歳)

レジェは、ピカソ、ブラックと並んでキュビスムの画家と見なされる画家です。
1907年にパリのサロン・ドートンヌで開催されたセザンヌの回顧展をきっかけに、レジェはキュビスムに参加。人物が円筒形に表された彼の作品からは「自然を円錐、円筒、球として捉える」というセザンヌの言葉の影響が感じられます。
後にレジェはキュビスムから離れ、太い輪郭線と単純なフォルム、明快な色彩を特色とする独自のスタイルを築いてゆきました。

キュビスムの代表的な作品

パブロ・ピカソ《オルタ・デ・エブロの工場》1909年

パブロ・ピカソ《オルタ・デ・エブロの工場》の絵パブロ・ピカソ《オルタ・デ・エブロの工場》1909年 エルミタージュ美術館

ジョルジュ・ブラック《ヴァイオリンとパレット》1909年

ジョルジュ・ブラック《ヴァイオリンとパレット》の絵ジョルジュ・ブラック《ヴァイオリンとパレット》1909年 ソロモン・R・グッゲンハイム美術館

フェルナン・レジェ《森の裸体》

フェルナン・レジェ《森の裸体》の絵フェルナン・レジェ《森の裸体》1909年-1911年 クレラー・ミュラー美術館

円筒形のフォルムは、キュビスムをもじって「チュビスム(”T”ubism,土管屋)」と揶揄されることもありました。

パブロ・ピカソ《ギター》1913年

パブロ・ピカソ《ギター》の絵パブロ・ピカソ《ギター》1913年 MOMAニューヨーク近代美術館

フアン・グリス《縞模様のテーブルクロスのある静物画》1915年

フアン・グリス《縞模様のテーブルクロスのある静物画》の絵フアン・グリス《縞模様のテーブルクロスのある静物画》1915年 メトロポリタン美術館

キュビスムと写真作品

キュビスムの表現方法は、写真家にも影響を与えました。
具体的には、光と影の対比、幾何学的な形態を重視した作品ということです。
例えば、写真家のアンドレ・ケルテスは、キュビスムらしい幾何学的な構成を用いた作品を制作しています。

アンドレ・ケルテスによる白黒写真で、駅と線路が俯瞰で撮られている

アンドレ・ケルテスによる白黒写真で、皿とフォークとテーブルに落ちる影が写されている

アンドレ・ケルテスによる白黒写真で、花瓶に入ったチューリップが写されている

アンドレ・ケルテスによる白黒写真で、花瓶と螺旋階段が写されている

タイトルとURLをコピーしました