パピエ・コレの意味や誕生のきっかけ、代表的なアーティストについて解説します。
また、コラージュ、アッサンブラージュ、フォトモンタージュなど、よく似た技法との違いについても分かりやすくまとめました。
パピエ・コレとは?
パピエ・コレの意味は?
パピエ・コレ(papier collé)はフランス語で「貼りつけられた紙」を意味し、キャンバスに新聞紙や壁紙などの紙片や、薄い木片といった実物の素材をのりで貼りつけて表現する技法を指します。
パブロ・ピカソ《グラスとSuzeの瓶》1912年 ワシントン大学アートギャラリー
この技法で有名な画家にはキュビスムの創始者であるパブロ・ピカソやジョルジュ・ブラックが挙げられます。
キュビスムとパピエ・コレの起源
パピエ・コレの技法は、芸術運動キュビスムの進化の歴史の中で生まれたものです。
1909年〜1911年頃、パピエ・コレが考案される以前には、ピカソとブラックは対象を小さな切子面に分解し、再構成する「分析的キュビスム」に取り組みました。
パブロ・ピカソ《ウーデの肖像》1910年 個人蔵
しかし、分析的キュビスムで対象の分析と解体が進んだ結果、描かれているものの判別が困難となる事態に陥ります。このとき分離された色や形といった個々の要素を再び統合する試みの中で、パピエ・コレの技法を使った「総合的キュビスム」が誕生したのです。
パピエ・コレは、キュビスムの画家ジョルジュ・ブラックが白い紙に模造木目紙を貼り付けて絵を描いたことから始まりました。
この実験の名残からか、この時期のブラックの作品にはたびたび木目柄が登場しています。
ジョルジュ・ブラック《クラリネットのある静物》1913年 MOMA
ピカソは日常の現実を作品に取り入れるために、ブラックが好んだ木目調の紙の代わりに新聞ル・ジャーナルのページを好んで使用しました。
パブロ・ピカソ《ビュー・マルクのボトル、グラス、ギター、新聞》1913年 テート美術館
ブラックとピカソはともに1912年〜1913年のはじめまでに多数のパピエ・コレを制作します。
キュビスムの詳しい歴史やアーティストについてはこちらをご覧ください。
パピエ・コレと似た技法
パピエ・コレとコラージュの違い
素材を貼り付ける技法としては、「コラージュ」も知られています。
では、パピエ・コレとコラージュの違いは何でしょうか?
「パピエ・コレ」はフランス語で「貼りつけられた紙」を意味します。
一方、「コラージュ(collage)」は、「糊で貼り付ける」という意味のフランス語の動詞「coller」に由来する用語です。紙片に限らず、布や小枝、金属片や葉っぱなどを絵画作品に貼り付けたものをコラージュと呼びます。
アン・ライアン《102番》1948年 MOMA
アン・ライアンの作品《102番》には、色紙、布、革が素材として貼り付けられています。
つまり、どちらも絵画などの二次元作品で使われる技法ですが、言葉の意味上は、コラージュは何かしら素材を貼り付けた技法を指し、パピエ・コレがより紙片に限定された技法を指すと言えます。
とはいえ、紙片のみで構成された作品をコラージュと呼ぶこともありますし、紙片のみで構成されていない作品をパピエ・コレと呼ぶこともあるため、線引きは曖昧です。
パピエ・コレとアッサンブラージュの違い
素材を貼り付ける技法としては「アッサンブラージュ」も知られています。
では、パピエ・コレとアッサンブラージュの違いは何でしょうか?
アッサンブラージュとは1930年以降に誕生した、より立体的な技法です。場合によっては釘を打ったりパーツをねじ込んだり、溶接する必要があります。
ヤン・シュヴァンクマイエル《PRACUJÍCÍ HMYZ》2021年
『アリス』等で有名な映画監督、ヤン・シュヴァンクマイエルのアッサンブラージュ作品。「働く昆虫」というタイトル通り、工具を昆虫の胴体に見立てたところが面白いですね。
つまり、素材を貼り付けて作品を構成するという共通点はあるものの、紙片を貼り付けて作る二次元作品のパピエ・コレに対して、アッサンブラージュは立体的な素材を取り入れた、より三次元に近い作品になるという違いがあります。
パピエ・コレとフォトモンタージュの違い
パピエ・コレとよく似た技法に「フォトモンタージュ」があります。
では、パピエ・コレとフォトモンタージュの違いは何でしょうか?
フォトモンタージュは1920年代にダダやシュルレアリスムにおいて盛んに制作された技法で、写真を切り貼りしてコラージュしたり、二重露光させたりして、写真イメージを合成します。
複数の写真イメージを接合=合成(モンタージュ)することで、単一の写真イメージから得られない視覚言語を創造することを目指しました。
マックス・エルンストによるこのフォトモンタージュは、ゲオルグ・パウル・ノイマン『ドイツ空軍飛行』(1914年)に掲載された化学爆弾の航空写真をベースに、魚やカブトムシの断面図を組み合わせています。技術的要素と生物学的要素という驚くほど非論理的な構成が特徴的です。
フォトモンタージュでは写真を主に使うため、より素材が限定的です。そして、フォトモンタージュとパピエ・コレには、その目的や期待する効果が異なるという点で違いがあります。
パピエ・コレの代表的な芸術家
パブロ・ピカソ
・出身地:スペイン マラガ
・生年月日:1881年10月25日
・死亡年月日:1973年4月8日(享年91歳)
パブロ・ピカソは「20世紀最大の画家」と呼ばれる巨匠です。
幼少期より絵の才能を発揮し、14歳で画家としての活動を開始。1904年にパリへ移住します。そこでセザンヌやロートレック、シャバンヌといった一流画家たちの画風を吸収し、暖かみのある色使いでサーカスや旅芸人などを描いた「バラ色の時代」で、一躍脚光を浴びました。
ポスト印象派の巨匠セザンヌに影響されたピカソは、1907年夏、《アヴィニョンの娘たち》を制作。モチーフを複数の視点から描くキュビスムの技法を考案しました。
パブロ・ピカソの生涯と代表作品についてはこちらをご覧ください。
ジョルジュ・ブラック
・出身地:フランス・アルジャントゥイユ
・生年月日:1882年5月13日
・死亡年月日:1963年8月31日(享年81歳)
ジョルジュ・ブラックは、ピカソと並ぶキュビスム創始者の一人です。
職人だった父や祖父と同じく幼少期から装飾芸術を学び、1897年には名門エコール・デ・ボザールに入学。25歳のころに詩人ギヨーム・アポリネールと共にピカソのアトリエを訪れ、《アヴィニョンの娘たち》を観て衝撃を受けたといいます。セザンヌの風景画の影響を受けつつ制作した《レスタックの家》は、「キュビスム」という名前のきっかけとなりました。
ジョルジュ・ブラックの生涯と代表作品についてはこちらをご覧ください。
フアン・グリス
・出身地:スペイン マドリード
・生年月日:1887年3月23日
・死亡年月日:1927年5月11日(享年40歳)
フアン・グリスはピカソ、ブラックと並ぶキュビスムの画家です。
彼はスペインのマドリードで生まれ、主にフランスで活躍しました。ピカソやブラックよりも少し年下であるグリスは総合的キュビスムの時期に活動し、パピエ・コレやトロンプ=ルイユといった技法を使用して現実の再構成としての画面を作り上げたことで知られます。フアン・グリスの作品はカラフルな色彩が特徴的です。
ピカソらがキュビスムから離れた後も、彼は生涯キュビストであり続けました。
パピエ・コレの作品
パブロ・ピカソ《ギター》1913年
パブロ・ピカソ《ギター》1913年 MOMAニューヨーク近代美術館
フアン・グリス《縞模様のテーブルクロスのある静物画》1915年
フアン・グリス《縞模様のテーブルクロスのある静物画》1915年 メトロポリタン美術館