「芸術家には猫好きが多い」と聞いたことはありませんか?
自由奔放でミステリアスな猫の性格が芸術家の想像力を掻き立てるとか、制作中に静かに寄り添ってくれる猫の存在が癒しになるとか、色々な説があります。あるいは…ただシンプルに猫が可愛いからかもしれませんね。
ピカソ、ダリ、マティス、ゴーリーをはじめ芸術家と猫の関係が分かる写真や作品をまとめてみました。(随時更新中)
芸術家と猫たち
ルイス・ウェインと猫
ルイス・ウェインは、19世紀末から20世紀にかけてイギリスで活躍したイラストレーターです。
猫好きで知られ、彼の作品には猫ばかりが登場します。後ろ足で立ち、生き生きと表情豊かに擬人化された猫のイラストは当時人気を博しました。また、猫好きのウェインは猫保護協会をはじめとするチャリティー団体の議長に就任したこともあったそうです。
ちなみに、ルイス・ウェインは「統合失調症の病状が進むにつれてサイケデリックな画風に変わっていった」という噂が広く知られていますが、彼は制作年を記録しなかったので本当にそのような画風の変遷があったのかは真偽不明です。晩年にもクラシカルな猫の絵を描いていたとも言われています。
グスタフ・クリムトと猫
ウィーン分離派として知られる画家クリムトは大の猫好きで、アトリエに猫を8~10匹も飼っていました。
この写真で抱きかかえられている猫は、カッツェ(Katze:ドイツ語で「猫」の意味)と呼ばれていたそうです。
ワシリー・カンディンスキーと猫
20世紀初頭のロシアの画家ワシリー・カンディンスキーは、抽象芸術の先駆者で青騎士のメンバーの一人です。
彼もまた猫を飼っており、ヴァスケという名前の猫を抱いているカンディンスキーの微笑ましい写真が残っています。
パウル・クレーと猫
パウル・クレーは、スイス出身の20世紀を代表する画家の一人で、幾何学的な形や鮮やかな色彩を使った独特の作風で知られます。
幼い頃から、クレーにとって猫は家族の一員でした。この人懐こい長毛の白猫はビンボと呼ばれ、可愛がられていたそうです。
カンディンスキーの妻、ニーナ・カンディンスキーの回想録『カンディンスキーとわたし』の中でもクレーと猫の親密な関係が描写されています。
パウル・クレーは猫が大好きです。デッサウでは、彼の猫はいつもスタジオから窓の外を眺めていました。私の部屋からもよく見えました。猫はしつこく私を見ていたそうで、クレーは私にこう言いました。「君は秘密を保持できないよ。うちの猫が全部教えてくれるんだ。」
パウル・クレー《猫と鳥》1928年 MOMAニューヨーク近代美術館
ピエール・ボナールと猫
ピエール・ボナールは、19世紀から20世紀にかけて活躍したフランスの画家で、ナビ派に分類されます。彼は身近な人物や光景を描くことで知られており、作品にはたびたび猫が描き込まれました。
ピエール・ボナール《猫と女性 あるいは 餌をねだる猫》1912年 オルセー美術館
ピエール・ボナール《白い猫》1894年 オルセー美術館
アンリ・マティスと猫
アンリ・マティスは、20世紀初頭のフランスのフォーヴィスム運動やカットアウト(切り紙絵)の技法で知られる画家です。
晩年、マティスはベッドや車椅子で闘病生活を送ることになりますが、ロバート・キャパによるこちらの写真によると彼のそばには猫が寄り添っていたことが分かります。
パブロ・ピカソと猫
パブロ・ピカソはキュビズムの創始者の一人で、《ゲルニカ》などで知られる画家です。
ピカソは猫好きでも知られ、その絵画やデッサンの中にも猫がたびたび登場します。
なかでも、野良のシャム猫にミノーと名付けて可愛がっていたエピソードは有名です。
ピカソの20代の頃の写真に写っているのがミノーだと思われます。
パブロ・ピカソ《鳥を捕らえた猫》1939年 ピカソ美術館
ジョージア・オキーフと猫
ジョージア・オキーフは、花の絵で知られる現代アメリカの芸術家です。
彼女は動物好きで、晩年にはペットとして飼っていたシャム猫を抱いている写真が何度も撮影されています。
ジャン・コクトーと猫
ジャン・コクトーは、20世紀のフランスの詩人、小説家、映画監督、美術評論家です。芸術家のサルバドール・ダリやパブロ・ピカソとも交流がありました。
彼もまた猫好きで、このような名言が残っています。
If I prefer cats to dogs, it’s only because there are no police cats.
もし私が犬よりも猫が好きだとすると、それは警察猫というものがいないからだ。
藤田嗣治と猫
藤田嗣治(レオナール・フジタ)は、日本生まれのフランスの画家・彫刻家で、エコール・ド・パリの代表的な画家の一人です。彼は独自の「乳白色の肌」と呼ばれる画風で知られ、裸婦像や猫を題材にした作品があります。
また、猫が好きで自画像にも猫が描き込まれています。
藤田嗣治《自画像》1929年 東京国立近代美術館
サルバドール・ダリと猫
サルバドール・ダリは、20世紀に活躍したシュールレアリスムの画家です。
1960年代、彼は小型のヤマネコであるオセロットをペットとして購入し、バブーと名付けました。その可愛がりようは、食事へ行くときにもバブーを連れていたほど。レストランに警戒された際には、ダリは「バブーはオプ・アート※のデザインで塗りつぶした普通の猫だ」と静かに語ったという逸話があります。
※オプ・アート:「オプティカル・アート」(Optical Art)の略称。錯視や視覚の原理を利用した絵画、彫刻の一様式のこと。
フリーダ・カーロと猫
フリーダ・カーロは、20世紀のメキシコの画家であり、自画像を中心にした作品で有名です。
彼女の自画像にはペットとして共に暮らしていた猿や鹿、オウム、犬といった動物が描き込まれています。猫もまた、彼女の家族の一員でした。
フリーダ・カーロ《いばらの首飾りとハチドリの自画像》1940年 ボストン美術館
バルテュスと猫
バルテュスは20世紀のフランスの画家です。少女のヌードといったセンシティブな題材で知られますが、彼の作品には猫もよく登場します。多いときには33匹もの猫と暮らしたそうです。
バルテュスは《猫の王》と題した自画像を描いています。
バルテュス《猫たちの王》1935年 バルテュス財団
また、バルテュスは11歳の頃、仔猫ミツと少年の物語を40枚の絵に残しました。この作品は1921年に小冊子として発行され、当時バルテュスの両親が親しくしていた詩人リルケが序文を寄せています。
この作品は日本でも『ミツ バルテュスによる四十枚の絵』として河出書房より発行されているので、ぜひ手に取ってみてください。
「こうした猫はバルテュスにとって何だったのか?」との問いに対して、妻であった節子さんはこう語っています。
「猫はバルテュス本人だったのではないでしょうか。テーブルの上のうちの猫を見て、(自分の前世は猫だと思っていたので)こんな風に気持ちよく寝そべっていたのを思い出す、なんて言うのですから」
アンディ・ウォーホルと猫
アンディ・ウォーホルは、アメリカのポップアートの代表的なアーティストの一人です。彼は、キャンベルスープ缶やマリリン・モンローの絵画など、大衆文化のアイコンを題材にした作品で知られています。
ウォーホルは猫好きでも知られ、一時期、25匹も猫を飼い、全てサムという名前で呼びました。1954年には『サムという名の25匹の猫と1匹の青い子猫ちゃん』という画集を私的に印刷しています。
(『サムという名の25匹の猫と1匹の青い子猫ちゃん』より抜粋)
エドワード・ゴーリーと猫
アメリカの絵本作家、エドワード・ゴーリーもまた愛猫家です。
子供が死んでしまう様子をABC順に描いた絵本『ギャシュリークラムのちびっ子たち』をはじめ、ダークな作風で有名なゴーリーですが、猫が嫌な目に遭うシーンは描かないことでも知られています。(※唯一の例外としては、ミュージカルの元となった詩集の挿絵を担当した際に描かれた、雷に打たれている猫のみとのこと)
エドワード・ゴーリー《キャッツ ポッサムおじさんの実用猫百科》1982年 The Edward Gorey Charitable Trust
エドワード・ゴーリー《空飛ぶ猫のいる自画像》制作年不明 The Edward Gorey Charitable Trust