西洋美術の用語である「アトリビュート」の意味や、使われるようになった理由について解説します。
また、「シンボル(象徴)」や「アレゴリー(寓意)」など、よく似た用語との違いについても分かりやすくまとめました。
絵画におけるアトリビュートの意味
絵画におけるアトリビュートは、特定の人物や神々を象徴するアイテムや特性を指す言葉です。これはギリシャ・ローマ神話や宗教画に特によく見られます。
聖人や神々を描く際に、彼らの物語や性格を示すアイテムや特徴を加えることで、観察者が絵画のテーマを理解する手助けになるのです。
例えば、聖母マリアは、青いマント、天使、百合の花、バラの花、三日月などといったアトリビュートとセットで描かれます。
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ《エル・エスコリアルの無原罪の御宿り》1660-1665年 プラド美術館
分厚い聖書とライオンと共に描かれる男性がいれば、それは聖ヒエロニムスです。
ルーカス・クラーナハ《書斎の聖ヒエロニムスとしてのアルブレヒト・フォン・ブランデンブルク》1525年 ヘッセン州立博物館
また、マグダラのマリアはしばしば香炉を持って描かれ、これは彼女がイエスの足を香油で洗ったという聖書のエピソードを示しています。
カルロ・クリヴェッリ《マグダラのマリア》1480年 アムステルダム国立美術館 ※一部拡大
このように、アトリビュートを理解することで、絵画の中の人物やその役割、物語をより深く理解できるようになります。
アトリビュートが必要とされた理由
昔、読み書きのスキルが一般的ではなかった時代には、情報を伝達するための代替手段として絵や記号が利用されました。
そのため、絵画のアトリビュートは、文字による情報伝達が難しい人々にとって視覚的な言語としての役割を果たしてきたと言えます。
それらのアトリビュートがあることで、「この特定のアトリビュートを持っているから、これは誰々を表している」といった理解が可能となります。つまり、読み書きができない人々でも教会の壁画やステンドグラスに描かれた聖人や神々の物語を読み取ることが可能になったのです。
アトリビュートが用いられた絵画は、神話や宗教の物語や教えを効果的に広める手段として生まれ、その後の世代に伝えていくための一つの方法となりました。
これは、視覚芸術が情報伝達の重要な手段であったという事実を示しています。
アトリビュートとシンボル(象徴)の違いは?
「シンボル(象徴)」もアトリビュートに似た用語として挙げられますが、これらは別のものです。
アトリビュートは特定の人物や神々を象徴する具体的なアイテムや特徴を指します。
一方、シンボルはより抽象的な概念や思想を表現するための視覚的な表現です。
例えば、平和のシンボルとして描かれた鳩は、特定の人物や神々を指すものではありません。
パブロ・ピカソ《平和の鳩》1949年
アトリビュートとアレゴリー(寓意)の違いは?
「アレゴリー(寓意)」もアトリビュートに似た用語として挙げられますが、これらは少し異なります。
アトリビュートは特定の人物や神々を象徴する具体的なアイテムや特徴を表します。
一方で、アレゴリー(寓意)は抽象的な概念や価値を物語やシーンを通じて表現します。たとえば、正義の女神が天秤を持つ姿はアレゴリーであり、その一方で、その天秤は彼女のアトリビュートとなります。
ルーカス・クラーナハ《正義の寓意》1537年 個人蔵